クイックノート

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何人保護すれば虐待死を減らせるのか

年々増加する児童相談所の相談件数や一時保護件数とは対照的なのが、
完全に横ばい状態の虐待死の件数です。

最近の悲惨な虐待死のニュース等を受けて、
より一時保護の数を増やそうという流れが見えていますが、
果たしてこのアプローチは正しいのでしょうか。

「虐待死をゼロにする」はよく聞くフレーズですが、
虐待死自体は年間50件であり、
年間の一時保護が数万件あることを考えると、
盛大に空振りしているように感じます。

この数万のどれだけ増やせば、
虐待死をゼロにできるのでしょうか。 数十万、数百万で足りるでしょうか。

ここでは、統計データと照らしながら、
簡単なモデルを元に保護人数と防げる虐待死の件数の関係
を計算することにします。

方法

仮定

計算を単純にするため、次の二つを仮定します。

  • 保護された子供は虐待死を避けられる
  • 保護対象はランダムに選択される

一旦保護されても、家に帰ってから再び虐待を受けたり、
保護された後、施設内で虐待を受けたりすることもあることは
よく知られていますが、ここでは、保護された子供は、
虐待死しないものとします。

また、保護は通報を元に行われるケースが多く、
その通報の確度によって保護対象が変わることが想定されますが、
ここでは、保護は無作為に行われるものとして扱います。
最近では、「赤ちゃんの泣き声が聞こえたら通報しろ」と警察が広報するなど、
確度をいくら下げてでもとにかく保護しようという動きが盛んです。
そのため、無作為に保護という仮定もそこまで現実離れしてはいないでしょう。

保護によって助かる人数とその確率

一つ目の仮定から、虐待死するはずの子供が、
保護される子供であれば、その子供は助かることになります。

n人が保護された時、
k人が助かる場合の数は、
虐待死するはずの子供の集団からk人、
残りのn-k人をもともと虐待死しない子供の集団から選ぶ
という組み合わせの数になります。

それをn人を保護する組み合わせの数で割れば、
k人が助かる確率が求められます。

したがって、次のように変数を定義した時、

  • n: 保護する人数
  • k: 助かる人数
  • N: 全体の子供の人数
  • d: 虐待死する子供の人数

k人助かる確率P(k)は次式で計算できます。

P(k) = \frac{ _{d}C_{k} \cdot {}_{N-d}C_{n-k}}{_{N}C_{n}}

各変数の参照値

下の記事と同様に、
政府が発表している統計データを元に、
子供の人数および虐待死する子供の人数を設定します。

データは平成27年の時点のものを用いることとします。

clean-copy-of-onenote.hatenablog.com

現状の保護人数で救える人数

まずは、現状の保護人数に合わせて、
何人が助かるかを調べてみましょう。

下のグラフは横軸に救える人数、
縦軸にその確率を示したものです。

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無作為に保護した場合に救える人数

左端は、救える人数が0人、
全ての一時保護が無駄に終わる確率を表していますが、
なんと90%以上の確率で、全ての一時保護が無駄になる可能性があります。

もちろん無作為に保護するという仮定が強いのもありますが、
実際、保護人数が増え続けても、
虐待死の数が変化していない現状を考えると、
あながち、現実を捉えているかもしれません。

今の100倍保護してようやく10人

上のグラフは現状の保護数で計算したものですが、
保護人数を増やすとどうなるのでしょう。
どのくらい保護人数を増やせば虐待死は減るのでしょうか。

下のグラフは、保護人数を10倍、100倍と増やした場合に
救える子供の数とその確率を表しています。

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保護人数を10倍、100倍に増やした場合

グラフより、現状の10倍に保護人数を増やした程度では、
高い確率で誰も救えない結果となります。
一人救える可能性もそれなりに出てきますが、
これでは虐待死が減ったという実感が伴わないでしょう。

100倍の人数を保護すれば、ようやく10人程度が救われるようになり、
虐待死ゼロは遠いにしても、減らすことはできたと言えるでしょう。

もちろん100倍の人数を保護するのはとても現実的ではありません。
施設や職員をそれだけ増やすのためにコストがかかり過ぎるというだけではなく、
今の100倍の人数というのは、全子供の約20%を保護することになります。

つまり、確度を減らしてでも保護を増やそうという今のアプローチは、
現状では虐待死を減らす上でなんの効果もないだけでなく、
将来的にも無謀なアプローチであることがわかります。

保護人数を1倍から100倍まで刻んで変化させた場合

最後に、保護人数を2倍,3倍と増やしていき、
救える人数がどのように変化していくかをみてみましょう。

下のグラフは、助かる人数とその確率に加えて保護人数の軸も表したものです。
ちょうど、上でみてきたグラフを保護人数を増やしながら奥に並べて形になります。

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保護人数と救える人数の関係

一番手前はすでにみた現状の救える人数とその確率のグラフです。
そこから2倍、3倍と保護人数を増やしても、
救える人数は0人である確率が高い状態が続きます。

さらに保護人数を増やしていくと徐々に救える人数が多い方に、
確率の山が移っていく様子が見えます。

いくら一時保護の人数が年々増加しているとは言っても、
保護人数を2倍にするのことですら何年もかかります。
つまり、今はグラフの一番手前の無意味な保護の状況を
ちょろちょろしているだけと言えます。

いかに確度を減らしてでも保護人数を増やすというアプローチが無意味
であるかがよくわかりますね。

まとめ

年々増え続ける一時保護に対して、
虐待死が全く減らないのはなぜかの一つの答えとして、
モデルを用いて保護人数と救える虐待死の数の関係を計算しました。

虐待死を防ぐためにと短絡的に思いつく「確度は低くても保護を増やせ」は、
極めて高い確率で無意味であることがわかりました。

年間50件の虐待死を防ぐためには、保護の数では勝負にならず、
全く別のアプローチが望まれることでしょう。

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