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ふるさと納税の返礼品競争は悪か

昨年末から話題になっていたふるさと納税の返礼品競争ですが、
結局、総務省によって、返礼率30%を厳守しなければ、
ふるさと納税の対象から外すという強行的な手段で、
ほぼ決着が付いたように思います。

どの自治体も予算拡充のために、
返礼品で競い合う構図になったために生じたのが、
返礼品競争ですが、
総務省的には、この競争は強制的に終わらせる必要があると考えたのですね。

競争と言えば、この資本主義社会の中では、
価格競争が代表的ですが、
今回の返礼品競争も一見、この価格競争の一種のようにも見えます。

そうであれば、競争の結果、
自然とあるべき価格・返礼品に落ち着きそうなものですが、
返礼品競争は価格競争とは何かが決定的に違っていたのでしょうか。

国が手出ししてまで競争を終わらせる必要のあった理由について考えてみましょう。

返礼品競争

まずは、返礼品競争がどのようなものか、
ここで改めてまとめておきましょう。

ふるさと納税では、特定の地域にふるさと納税という名目で寄附をすることにより、
その地域からお礼の品(返礼品)が寄付者に渡されます。
また、この寄付金は、住民税および所得税として徴収される額から差し引きされるので、
実質タダ(年間2000円は寄付者が負担)で返礼品を受け取る仕組みです。

上は、納税者側から見たふるさと納税の仕組みですが、
自治体からすると、返礼品を渡す代わりに、
税収を受け取ることになります。

つまり、なるべく魅力的な返礼品を用意した方が、
多くの寄付金を集めることができ、大きな予算を獲得できます。

一方で、返礼品に魅力がなく、ふるさと納税を集めることのできなかった自治体からは、
他の自治体に住民税が流れる形になるので損をしてしまうことになります。

そのため、自治体はふるさと納税を集めるために、
返礼品で競争を始めたのです。

返礼率の競争

上を見ると、自治体はまるでお店のような立場になっていることが分かるでしょうか。
返礼品という商品を渡す代わりに、その代金つまり、寄付金を受け取るということです。

お店では、1万円のものを1万円で売っては商売になりませんから、
仕入れ値よりも高い値段をつけて商品を販売します。

それと同じように、自治体でも、3000円の返礼品を渡す代わりに、
1万円のふるさと納税を受け取ることで、差し引き7000円分が、
自治体の収入となります。
この納税額に対する返礼品の価格の割合を返礼率と呼んでいて、
上の例の場合では、30%ということになります。

ところが、納税者からすると、
同じ10000の寄附でも、返礼品は高額なものの方が魅力的に映ります。
つまり、単純に返礼率が高いほど魅力的な返礼品になるのです。

すると、自治体は、返礼率を上げることで競争し始めました。

返礼率の競争で全体の収入は減る

返礼率を上げることは、お店で原価率を上げることに相当し、
お店の儲け、つまり自治体の収入が減ることになります。

全ての自治体が返礼率を上げ合って競う状況では、
全体として自治体の収入が減ることになります。

もちろん、市場でも同様のことは起きています。

同じ商品であれば、安い方が、消費者にとっては魅力的ですから、
どの店も他店よりなるべく安い価格で商品を提供しようとして、
価格競争が起こります。

原価をそのままに、価格を下げようとすると、
単純に原価率は上がるので、
競争によって、どの店も売り上げが落ちることになります。

ここまでは返礼品競争もお店の価格競争も同じように見えますが、
何故、返礼品競争の方は良くないと思われているのでしょうか。

競争に負けると損をする

市場の価格競争と、自治体同士の返礼品競争で一つ大きな違いがあるとすると、
競争に負けると自身の税収を奪われる ということです。

今、A市に住んでいる住人xさんが、
A市とB市のどちらに1万円納税しようか悩んでいるとします。

もし、B市がA市よりも魅力的な返礼品を用意していたら、
xさんはB市に納税することになり、
もともとA市に収められるはずの住民税がB市に奪われることになります。

自分の市よりも魅力的な返礼品を提供する別の市があれば、
住民の納税はそちらの市に集中してしまって、
自分の市の収入は減ってしまうのです。

市場の場合は、競争に負けたからといって、
仕入れた商品は無駄になるかもしれませんが、
もともと持っているお金を他店に奪われるようなことはありません。

ここが、市場の価格競争と、
ふるさと納税の返礼品競争の大きな違いとなります。

損は判断を偏らせる

損失が絡んでくると、
人の意思決定はゆがんできます。

たとえば、次のような例を考えてみましょう。

1万円分の価値がある金塊のオークションを行います。
最も高い値段を宣言した人がその値段で金塊を購入することができます。
ただし、普通のオークションとは違って、
金塊を購入できなかった人も宣言した金額分が没収されます。

オークションに参加したAさんとBさんは次のように競争し始めました。
Aさん「1万円の価値があるなら、5千円で買っても、5千円の儲けがあるから、5千円」
Bさん「6千円」
Aさん「まだ、3千円のもうけだ、7千円」
Bさん「8千円」
Aさん「千円だけでも儲けよう、9千円」
Bさん「1万円」
Aさん「1万円だと儲けがないじゃないか。Bさんはどういうつもりなんだ」
Bさん「もし降りたら金塊ももらえない上に、お金も取られるだろ?」
Aさん「そうか、このままだと、ただ9千円払い損じゃないか、1万千円!」 ・・・

この競争はどこで落ち着くのでしょうか。

いずれにしても、損をすることを嫌って、
1万円の金塊に対して1万円以上の値段をつけるような事態に陥ってしまいました。

返礼率の競争は危険?

上の例で、損失が絡んでくる競争は危険であることが分かると思います。
また、ふるさと納税の返礼品競争では、
競争に負けるともともと持っていた税収が減るという損失があることも説明した通りです。

ということは、返礼品の競争も判断を歪められた危険なものになるのでしょうか。

競争の最悪のケースの一つを考えてみましょう。

A市とB市はそれぞれ税収が100万円あり、
合計で100万円分のふるさと納税に対する返礼率をどうするか悩んでいます。
ただし、返礼率の競争で負けると、他の市に今の税収100万円がまるごと持っていかれます。

A市「総務省の基準の30%に従っておくか」
B市「A市よりも高い返礼率にしておけば税収があがりそうだ、40%」
A市「このままだと、B市に住民税を持っていかれてしまう、50%」
B市「埒があかないな、ひと思いに攻めよう、90%」
A市「ここで降りると、もともとの税収も持っていかれて100万円損してしまう、
  それならいっそ損得なしの100%」
B市「このまま負けたら損するだけだ。それなら、少しでも回収できる方がマシだ、110%」

どちらの市も、自分のもともとの税収が減るくらいなら、
返礼率を高くした方がマシだと競争を続けています。

損失を嫌がるあまりに過剰な競争が起こるということですね。

もちろん、現実的にはより妥当な判断がされる可能性も大いにありますが、
人の判断は損失を避けるようなバイアスがかかることを考えると、
過剰な競争を引き起こす可能性もあることに注意が必要です。

まとめ

ふるさと納税の返礼品競争の問題について、
人のバイアスの観点から考えてみました。

競争に負けたら、今ある税収も持っていかれるという状況が、
過剰な競争を生む可能性をはらむことが分かると思います。

もちろん、総務省が規制を強める判断をしたのは、
この理由だけではなく、
単純に、全体としての実質的な税収が減る恐れがあること、
富裕層びいきとの声が上がっていること等もあるでしょう。

ただ、自分的には、
上のような破滅的な競争を止めるためと言われた方が、
納得感があります。
それだけ、国の介入というのは重いことだと思うからです。

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