クイックノート

ちょっとした発見・アイデアから知識の発掘を

得点0.8倍の影響はどの程度ある?

連日ニュースで話題になっている東京医科大学の入学試験における
恣意的な得点操作ですが、
その具体的な操作も明らかになってきています。

浪人生に対しての操作もありますが、
話を簡単にするために、現役の受験生だけで見ると、
男子、女子受験生の得点を一律0.8倍して、
男子だけ20点加点するという操作になっています。

明らかに女子受験生に不利な操作が行われているのですが、
この0.8倍で20点加点というのは、
どの程度、女子受験生を不利にしているのかというのが、
すっと入ってきませんね。

ということで、具体的にその影響を調べていこうと思います。

得点の分布のずれ

一律で0.8倍して、男子受験生だけ20点加点されているので、
男子と女子で元々の試験の得点に差が無かったとしても、
操作の結果、単純に男子の方が点数が高くなるように、
点数の分布がずれます。

下の図は同じ分布に従って男女の得点をランダムに生成した後に、
一律で0.8倍、男子だけ20点加点を施した点数を
男女別にヒストグラムで表したものです。

(点数は平均200、標準偏差100の正規分布に従って乱数を発生させ、
 0~400点以内に収まるまでリサンプリングを行った値です。)

f:id:u874072e:20180808103512p:plain

当然、分布がずれていることが見えますね。

ずれだけ見ると、そこまで極端にずれてないなと思う人もいるのではないでしょうか。

全体で見れば、若干のずれに見えてしまうかもしれませんが、
入試に影響するのは、順位です。

上位〇〇名しか入れないのが入試なので、
若干のずれでも、このずれた先の右端の部分で得点争いが起こっています。

そう思って、上の図の右端を見返してみると、
かなりずれの影響が大きい気がしてきますよね。

得点をずらすことによる合格率への影響

上のことから、分布全体のずれをみることにはさほど意味がないことが分かります。
つまり、「0.8倍して20点加点」を文字通り捉えるだけでは、
影響が見えてこない、実感できないというのは、その意味で正しかったのですね。

注目すべきは、得点の操作で順位にどう影響があって、
合格率にどのように響いてくるのかですね。

合格するかどうかというのは、分布の右端の方での争いになりますが、
倍率が高ければ高いほど、より分布の右端が重要になってきます。

公表されている入試結果によると、
2018年の東京医科大学医学部医学科の一般入試の倍率は、15.3 です。
つまり、上位 1/15.3 ≒ 6.5% での点数の争いということになります。

先ほどの分布で、上位6.5%に注目すると差がどのように見えるでしょうか。

下の図は、積み上げヒストグラムで、
上位6.5%のボーダーに縦線を引いたものです。 この線より右に出れば合格ということになりますね。

f:id:u874072e:20180808105811p:plain

分布全体のずれだけだと、見えずらかった影響ですが、
上の図で黒線より右に注目すると、
極端に女子の合格者が少ないことが見えます。

より具体的には、女子の合格者は全体の約28%でした。
男子の合格者は72%と倍程度の人数になります。
注意すべきは、男子と女子の元の得点は全く同じ分布としているので、
この不正な得点操作だけで、どれだけ大きな影響を与えるかが
ありありと感じられますね。

元の分布の形の効果

先ほどの結果だと、女子の合格者の割合は約28%でしたが、
実際は、さらに低く18%でした。
この違いはどこから来ているのでしょうか。

一つの原因として考えられるのは元の点数の分布の形です。

今の場合、平均点が丁度中間の200点くらいに来るとしていましたが、
実際は、受験生全員がその日のために頑張って勉強してやってきているので、
200点より高い点数に集まっていても不思議ではありません。

そこで、正規分布の平均を240点に上げて、同じ計算をしてみましょう。 結果は下の図のようになります。

f:id:u874072e:20180808112423p:plain

元の点数が右によったことで、上位の争いが激化しています。
その結果、得点操作が加わると、
もともとの男女の得点は同じであるにも関わらず、
女子の合格者の割合は、17.7% となりました。

このように、分布の形次第では、
操作の影響はさらに大きく成り得ることが分かりますね。

まとめ

入試のように得点の順位で競う場合、
その得点をずらすことが、
どれだけ結果に大きく影響するかを見てきました。

全体で見た時のずれの印象よりも、
上位での得点争いに大きな影響を与えることで、
入試の結果ががらりと変わってしまうのですね。

操作の大小の問題ではありませんが、
少ない点の違いでも、想像を超える影響があることを肝に銘じて、
公正な入試がなされていくことを願っています。

プライバシーポリシー