クイックノート

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不思議なほどに評価の高い中国の論文誌

論文誌とは、研究者たちが書く論文をまとめて、
出版される冊子のことです。

同分野の研究者たちで研究の成果を共有しあったり、
論文誌に出すこと自体が研究者のステータスとなったりします。

さて、そんな論文誌ですが、
一般の書店で売られている雑誌と同じように、
様々な出版社が様々な論文誌を出版しています。

そうすると、論文誌によっては、
この論文誌は良い論文を集めているけど、
こっちの論文誌はあまり良くない論文が目立つなど、
論文誌ごとに評価が変わってきます。

評価の高い論文誌と言えば、
世界中の様々な研究者が競い合って出すような論文誌という気がしますが、
ほぼ中国の研究者によってなされた研究があつまった論文誌なのに、
評価の高い論文誌があります。

今回は、この不思議な論文誌について見ていきましょう。

インパクトファクター

論文の評価を測る方法の一つとして、
インパクトファクターがあります。

これはざっくり言うと、
その論文誌に掲載された論文が
どれだけ他の論文に引用されているかを表しています。

良い論文ほど、他の研究者から引用されやすいので、
引用数の多い論文を集めている論文誌は良い論文誌だろう
という考え方ですね。

もちろん、分野によって引用されやすさも変わってきたりするので、
単に引用の多い少ないで良さは評価しきれないのですが、
数字として分かりやすいというメリットがあります。

そんなインパクトファクターの値が中々高い中国の論文が、
「Chinese Physics C」です。

実際インパクトファクターを見てみましょう。
こちらのサイトから様々な論文誌のインパクトファクターを調べることができます。

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グラフでは、各年のインパクトファクターの値と、
類似した分野の中で、
そのインパクトファクターがどのくらいの位置にくるかを示しています。

グラフを見ると、
2016年には、類似分野の中で上位10%に届くほどのインパクトファクターを記録していますね。

「Chinese」とついているからには、ローカルな論文誌のように見えるのですが、
世界的に評価されていないとこの数値はなかなか難しい気がします。

本当にローカルか?

名前に「Chinese」とついているだけで、実はその分野では有名で、
世界中から論文が集まるような論文誌かもしれません。

さっきのサイトはかなり便利で、
その論文誌に論文を投稿している国も分かります。

ということで、国ごとの投稿数を見てみましょう。

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この表は過去三年にそれぞれの国から投稿された論文数をカウントしたものです。

どうみても、圧倒的に中国が多いですね。
他の国が全くないわけではありませんが、
ローカルな論文誌であることに間違いはなさそうです。

そもそも中国人の研究者の母数が多いということもありますが、
これだけ極端だと母数だけの問題ではないですね。

論文誌内で引用しあっている?

論文誌の中には、インパクトファクターを高めるために、
「うちに投稿するなら、うちの論文引用しようよ」
という方針を進めているところがあるようです。

この論文誌はどうなんでしょうか。

それを調べるには、
自分の論文誌内で引用された論文の引用数を除外した
「Impact Factor Without Journal Self Cites」を見ればオッケーです。

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元のインパクトファクターは「3.298」だったので、
少しは下がりましたが、そこまで大きく盛られてはいないようです。

原因はたった一つの論文

他に考えられる原因はなんでしょうか。

その答えにたどり着くヒントは、
インパクトファクターの計算に現れていた数値にありました。

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上の式でインパクトファクターが計算されているのですが、
分数式の分子に着目して下さい。

2015年に出版された論文の引用数が149に対して、
2016年に出版された論文の引用数が1424と異常に高いことが分かります。

一方で、分母の方は、2015年と2016年でほとんど変わっていません。

つまり、2016年に出版された論文の中で引用数を非常に多く集めた論文があるはずです。

そこで、論文の引用数を見てみると、
一つの論文が、他の論文と比べて、以上に多く引用されていることが分かります。

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タイトルから、レビュー論文であることが分かりますね。

レビュー論文とは、特定のトピックについて関連する論文をまとめた論文のことで、
一つ一つ文献を細かく引くより、ザックリと引用したい時に、
研究者が引用しやすい論文です。

このたった一つのレビュー論文が引用数を大きく稼いだおかげで、
論文誌自体のインパクトファクターが大きく引き上げられたということですね。

これはインパクトファクター自体の問題ですが、
たった一つの論文が、論文誌全体の評価のほぼ決めてしまっていて、
もはや、論文誌全体としての評価とは言い難いですね。

まとめ

ローカルなジャーナルに見えるのに、
異様にインパクトファクターが高いジャーナルについて、
その原因を調べてみました。

原因は、たった一つのレビュー論文で、
引用のされやすいレビュー論文のおかげで、
論文誌全体としてのインパクトファクターが大きくブーストされていることが分かりました。

インパクトファクターで論文誌を評価するのは無理があるとはよく言われていますが、
まさにその例となっていますね。

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