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テレビの最適な視聴距離ってどうやって計算してるの?~4Kが計算上ベストな理由~

テレビのサイズを決める時に、
セットで考えないといけないのが、
テレビを見る時にどのくらい離れて見るか、
つまり、視聴距離です。

ネットで調べてみると、
「テレビの高さの約3倍」とか、
「〇〇インチなら、○○センチ」とか、
具体的な数字が出てきますが、
この数字はどのように決まっているのでしょうか?

また、最近は4Kテレビが話題ですが、
4Kテレビだと視聴距離に違いがあったりするのでしょうか?

この記事では、
テレビの最適な視聴距離の計算方法について、
解説していきます。

距離がなぜ関係するのか

そもそも、視聴距離が違うと、
テレビを見る時にどのように違ってくるのでしょうか?

イメージしやすくするために、極端な状況を考えてみましょう。

テレビのすぐ近くまで寄ってみてください。
とてもじゃないけど、番組を見れないと思います。

では、なぜ、見れないのでしょうか。

画面が視界に収まり切らない

一つ目の理由は、画面が視界に収まらないからです。

画面に近づき過ぎると、
画面が視界からはみ出てしまいます。

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ある程度の距離を取らないと画面全体を視界に収めることができません。

逆に距離を取りすぎると、視界に画面以外の余計なものが移るので、
画面に集中できないかもしれません。

画素の粗さが目立つ

テレビに近づいて、画面を見ると、
映像のギザギザ感が見えてきます。

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テレビでは、色のつぶつぶで映像を映し出しているので、
近づくと、そのつぶが見えてきて、
映像がざらっとした印象になります。

離れて見ると、つぶが潰れて目立たなくなるので、
滑らかに見えるのですが、
余りに離れると、今度は映像自体が潰れて見えなくなってしまいます。

視界と適切な距離

人の視界はおおよそ円錐状に広がっていきます。
そのため、視野の広さは、角度で表されることが多いです。
この角度を視野角と呼びます。

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人の視野は、左右合わせて200度、
上下合わせて130度程度と言われています。

左右方向の方が視野が広く、
比率にすると、16:10程度になります。

現行のテレビのほとんどは縦横の長さの比が、
16:9 ですが、これは人の視野の縦横比に近くなるように
デザインされているのでしょう。

視野角から視界の広さへ

視界が視野角で広がることは分かりましたが、
どのくらい離れると、どの程度の広さが見えるようになるのでしょうか。

左右は視野が広いと言いましたが、
色が分かるような視野は、左右合わせて70度程度に狭まります。

上から見ると、下の図のように、左右の視界は、
扇形で広がっていき、
と呼ばれる部分に画面が来ると、
丁度その画面の幅が視界に収まることになります。

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画面からの距離をLm として、
視野の広がる角度を\thetarad とすると、
弦の長さは、

 2 L \sin(\frac{\theta}{2})

で求まります。

これが画面のサイズと丁度なら、
視界一杯に画面が広がっていることになります。

〇〇型から横、縦の長さへ

テレビのサイズは、対角線の長さで表現されます。
〇〇型というのは、対角線の長さが〇〇ということで、
単位はインチ(1インチ=2.54センチメートル)です。

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テレビの縦と横と対角線で丁度、直角三角形になっているので、
三平方の定理が使えます。

また、最近の一般的なテレビの場合、縦と横の比が
横:縦=16:9
になるように設計されています。

これらを踏まえると、
画面の縦の長さhと、
横の長さwは、
対角線の長さlを使って、
次のように計算できます。

h = \frac{9}{\sqrt{16^2+9^2}}l
w = \frac{16}{\sqrt{16^2+9^2}}l

ただし、lの単位がそのまま結果の単位になるので、
単位の違いには注意が必要です。

視野から見た最適な視聴距離と画面サイズの関係

視野の広さと、画面のサイズが一致すれば、
視野一杯に画面が広がり、
余分なものが映り込むことも、
視界から画面が見切れることもない、
ベストな視聴環境となります。

例えば、横方向については、

 2 L \sin(\frac{\theta}{2}) = w = \frac{16}{\sqrt{16^2+9^2}}l

を満たす時が最適な状況であると言えます。
縦方向についても同様です。

テレビは横に広く、横方向の視野は、
色彩を区別できる範囲に限定すると70度程度しかなくなるため、
視界からはみ出すとすれば、まず横方向からになります。
そのため、ここでは横方向だけを考えることにします。

横方向の色彩が判別できるとされている視野角70度を上の式に代入して、
画面サイズと、最適な視聴距離の関係をグラフで描くとしたのようになります。

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グラフを見ると、50インチの時の最適な視聴距離が約1mですが、
これは検索して見つけられる視聴距離の半分ほどです。

つまり、よく紹介されている最適な視聴距離は、
視界のことを考えたものではないということですね。

解像度と適切な距離

視聴距離の計算は、視野のことを考えたものではないとすると、
残るは、解像度になります。

近づけば粗さが目立ちますし、
遠ざかれば細かい部分が潰れて見えます。

適切なのは、粗くもなく、潰れることもなく、
人の目で区別できる間隔で、
丁度目に映像が入りこんでくる距離ということになります。

人の目で区別できる間隔というのは、
視力検査などで輪っかの空いているところが見えるかというあれです。
つまり、人の視力で見えるか見えないかが決まってきます。

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映像は画面上では粒々で表現されますが、
その粒の間隔は、画面サイズと、解像度で決まってきます。
同じサイズでも、解像度が大きいと粒が密集しますし、
同じ解像度でも、画面サイズが大きいと、粒の間隔が広がります。

この画面上の粒の間隔が、丁度、
人の視力で見える間隔になるくらいの時が、
細かすぎず、粗すぎないベストな状態と言えます。

目に見える画面上の粒の大きさ

人の目で区別できるかどうかは視力に関係してきます。

視野と同じように、我々の目で区別できる幅も、
円錐状に広がっていきます。
そのため、広がりの角度が重要になってきます。

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実は、視力検査などでよく目にする「視力1.0」という数字は、
この角度を基準に定義されています。

目で区別可能な角度を\alphaとすると、
視力はその逆数
\frac{1}{\alpha}
で定義されます。

ただし、\alpha は、60分の1度の時に\alpha=1となるように、
単位が調整されています。
そのため、視力「1.0」は60分の1度の角度を識別できることを意味しています。

この角度(視力)が分かれば、視野の場合と同じように、
画面上で識別可能な幅は、扇形の弦の長さなので、
 2L sin(\frac{\alpha}{2})
となります。

画面上の粒の間隔

画面上には、縦と横に粒々が沢山並んでいます。
その粒々がそれぞれ色を出すことで、映像が表現されます。

よく目にする「解像度が1920×1080」などは、
横に1920個の粒、縦に1080個の粒を並べていることを意味しています。

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横と縦に粒が並びますが、
一番粒の間隔が空いているのは、
斜め方向です。

そのため、どのくらい粒が細かくならんでいるかを表す、
画素密度と呼ばれる量は、斜め方向の粒の間隔を基に計算されます。

縦と横の粒の数K_h,K_wを辺の長さだと思って、
対角線状に並んでいるであろう粒の数を三平方の定理から計算すると、
\sqrt{K_h^2 + K_w^2}
となります。

これが、長さlの対角線上に並んでいるので、
斜め向きの粒と粒の間の長さは、
\frac{l}{\sqrt{K_h^2 + K_w^2}}
と計算できます。

視力から見た最適な視聴距離と画面サイズの関係

目で区別できる画面上の間隔と、
粒の間隔が一致するとき、
粒の粗さが目立つこともなければ、
粒が潰れてしまうこともありません。

つまり、
 2L sin(\frac{\alpha}{2}) = \frac{l}{\sqrt{K_h^2 + K_w^2}}
が成り立つような画面サイズと視聴距離が、
ベストな状態と言えます。

仮に、視力を1.0として、解像度を1920×1080とした場合、
この最適な視聴距離と画面サイズの関係は次のようなグラフで表されます。

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40型の画面であれば、最適な視聴距離は1.5m、
50型であれば、視聴距離は2m近くであり、
検索で見つかる数値とよく合っています。

このことから、よく見かける最適な視聴距離は、
視力と解像度の関係から計算されたものである
ことが分かります。
また、視力は1.0で、
解像度は1920×1080であると暗黙のうちに仮定されているということになりますね。

最適な視聴距離と画面サイズの関係のギャップ

さて、視聴距離と画面サイズの関係について、
視野と視力の2つの視点から、
最適な関係を計算してきました。

計算の結果、それぞれ違った関係が得られましたが、
この違いはどのように解釈すれば良いでしょうか?

フルHDの場合

2つの関係のギャップに注目するため、
上で表示したグラフを一つのグラフ上に並べてみます。

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上側の青い線が、視力から求めたベストな視聴距離で、
下側の黒い線が、視野から求めたベストな視聴距離です。

この二つの線が丁度重なっていれば、
視野丁度一杯に画面が広がって、かつ、
画面のきめ細やかさもバッチリになるような視聴距離があるということですが、
今はそうなっていません。

黒い線より上側の部分は、画面は視野に収まっているけど、
それ以外の余分なものも視界に入ってくることを表しています。

青い線が、黒い線の上側に来ているということは、
画面の粗さが目立たない距離まで離れて見ると、
視界に画面以外の領域が増えてしまう
ということです。

せっかく大画面にしても、視界上ではサイズの大きさを余り感じられないくらい
離れて見ないと画面がきれいに見えないということなので、
ちょっと損した気分になるかもしれません。

4Kの場合

視力を基にしたベストな視聴距離は解像度にも影響を受けます。
それでは、今話題の4Kテレビの場合はどうでしょうか。

先ほどと同じように、二つの関係を一つのグラフにまとめてみます。

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なんと、計ったかのように、二つのグラフが一致しました!

つまり、4Kテレビの場合、
視野的にベストな視聴距離と、
視力的にベストな視聴距離がほぼ一致するということです。

これは、視界一杯に画面を収めることと、
きめ細かな映像を見ることが同時にできる
ということです。

テレビメーカーはこれを狙って4Kテレビを売り出しているのでしょうか。

ちなみ、8Kになると、青い線が黒い線の下にくるようになり、
高解像度の恩恵を受けるためには、画面全部を見るのではなく、
一部をズームしてみるようにしないといけなくなってしまいます。

まとめ

テレビの最適な視聴距離を、
人間の視力と視野の二つの観点から計算してみました。

実は簡単な数学だけで、このような計算ができてしまうのですね。

そして、よく見かける最適な視聴距離というのは、
視力と解像度の関係から求めたものであるということが分かりました。

また、4Kテレビが視力と視野の両面から最適な視聴距離が一致するという意味で、
優れたテレビと言えそうなことも分かりました。

そんな4Kテレビのメーカー毎の機能比較は↓の過去記事をご参照下さい。 clean-copy-of-onenote.hatenablog.com

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