クイックノート

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「世界」のシミュレーションができないことを証明する

最近のコンピュータグラフィックス(CG)や、
仮想現実(VR)などの技術を見ていると、
私たちが生きているこの世界も、
実はコンピューター上で作られたもので、
単に、私たちが気づいていないだけなのかも、
と思う人もいるのではないでしょうか。

これは、「シミュレーション仮説」と呼ばれていて、
議論の対象としてよく取り上げられています。

このシミュレーション仮説ですが、
次のような派生形も考えることができます。

私たちが生きている宇宙と同様の宇宙を、
シミュレーションすることは可能か。

これが可能であれば、
「私たち」の宇宙がどうかは置いておいて、
新たに作り出された世界の「彼ら」にとっては、
シミュレーション仮説が正しいということになります。

ところが、この派生版のシミュレーション仮説は、
恐らく成り立ちません。
その理由をまとめておくこととします。

シミュレーション仮説

まず、オリジナルのシミュレーション仮説をまとめておきます。
それは、次のようなものです。

「私たちの生きるこの世界は、
 コンピューター上のシミュレーションによるものである。」

つまり、私たちの体など、実体だと思っているものは、
コンピューター上のデータに過ぎないというものです。
もちろん、データもある形で保存されているので、
それを実体と言えば、実体が否定されるわけではありません。

派生版シミュレーション仮説

次に、ここで考えるシミュレーション仮説の派生を考えます。

「私たちの生きるこの世界と同質の世界を、  コンピュータ上でシミュレーションできる」

つまり、私たちの世界がシミュレーションかどうかは分かりませんが、
シミュレーション仮説が正しいような世界を、
私たちの手で作れるということです。

これが正しければ、
私たちの世界も同じように作られたと考えてもおかしくないので、
シミュレーション仮説を支えるものになります。

仮に、これが正しくなければ、
シミュレーション仮説が成り立つ条件が狭まることになります。

ということで、 この派生版のシミュレーション仮説について考えてみましょう。

背理法による否定の証明

背理法のアプローチで、派生版のシミュレーション仮説を否定しましょう。
つまり、仮に仮説が正しいとしたら、
何かしらの矛盾が起きるはずというスタンスです。

仮に、今の私たちの世界のコンピューターで、
私たちの世界と同質の世界をシミュレーションできたとしましょう。

その世界には、やはり、私たちの世界と同じように、
私たちと同じような知的生命体がいることになります。

そして、その知的生命体は、やはり、私たちと同じように、
世界のシミュレーションを始めるでしょう。

ポイントは、 私たちの世界と同質の世界をシミュレーションできるというところで、
シミュレーション上の世界Aが、別の世界Bをシミュレーションし、
その世界B上でもまた、別の世界Cをシミュレーションするという風に、
連鎖的にシミュレーション仮説が成り立つ状況が生じます。

この連鎖は、無限に続き得るので、
大元である私たちの宇宙のコンピュータには、
無限の宇宙がシミュレーションされることになりますが、
コンピューターの計算資源が、有限であることから、
このシミュレーションは不可能です。

すなわち、派生版のシミュレーション仮説は否定され、
私たちの世界と同質の世界を
シミュレーションすることはできないということになります。

元のシミュレーション仮説が受ける制限

派生版のシミュレーション仮説が否定されたことで、
元のシミュレーション仮説が否定されるとまでいくわけではありません。

ただし、 元のシミュレーション仮説が成立するための条件に
制限がつくことになります。

仮に、私たちの世界がシミュレーションされていたとして、
そのシミュレーションを行っている親世界が、
私たちの世界と同様のものだとすると、
先ほど否定された派生版のシミュレーション仮説に引っ掛かります。

つまり、仮にシミュレーション仮説が正しいとするなら、
上位の世界は、私たちの世界とは異なった世界であるということです。
その世界では、より複雑な物理が支配していて、
シミュレーションの能力が高いため、
無理なく世界のシミュレーションができているという必要があります。

シミュレーション上で展開される世界は、
元の世界よりも簡素なものになっていくというイメージですね。

まとめ

シミュレーション仮説の派生として、
同質の世界のシミュレーションが不可能であることを背理法で示しました。

また、それによって制限されるシミュレーション仮説の成立要件を整理しました。

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