クイックノート

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【本の紹介】「最強のデータ分析組織」

kindle unlimited の読み放題の対象に入っていたので、
通勤の時間に読んでみました。

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この本は、大阪ガスのビジネスアナリシスセンターの所長を務めた著者が、
自身の経験を踏まえて、企業でデータを活用したビジネス改善をどうすべきかについて、
書き記している本になります。

まだ「データサイエンティスト」というワードがホットではなかった頃から、
データをビジネスに活かすために奮闘されてきた様子や、
その中で得られた知見が現場の臨場感ある文章で語られています。

データサイエンティストの一つのお手本となるような話が沢山出てきますが、
その中でも、特に印象に残ったことを自分なりにまとめておきたいと思います。

改革における第三者としての意味

データサイエンティストは主に、
既存の業務における問題点を「見つけ」、
データを駆使して問題を「解き」、
そして、最後に、新しいプロセスを「使わせる」ことが仕事になります。

つまり、ゴールは、既存の業務を改革するということになります。

もちろん、普段から業務を行っている現場の人達が、
問題を見つけ改善していくこともありますが、
時には、やり方を180度変えるような大胆な転換が、
ビジネスの効率化の上で重要となることもあります。

ところが、業務を行っている本人たちにとって、
既存の方式を捨てて、
全く新しい方式を取り入れるということは、
大きな抵抗感
があります。

それは、単に面倒だからとかではなく、
人は、自分の行ってきたことに対して、
それを否定することに心理的に強い抵抗を覚えます。
このような抵抗を覚えることは、「認知不協和」と言いますが、
この人が持つバイアスから考えても、
本人たちで改革を行うことは難しいのです。

一方で、データサイエンティストは、
日ごろからその業務に携わっているわけではなく、
言ってみれば、業務自体に関係のない第三者の立場です。

このような立場だからこそ、
認知不協和のようなバイアスにとらわれずに、
改革すべきところを改革しようと提案できるのです。

このように、データサイエンティストは、
業務に関わらない第三者であるからこそ、
三者としてのバイアスのない目線で、
業務の改革を手伝うことができるのです。

距離感の重要性

上の第三者としての立場というのは、
ある意味、業務を行う人との「距離」を置いているからこそ、
データサイエンティストが活きてくるという話でした。

一方で、業務と「距離」を置き過ぎると、
全く役に立たない提案しかできない可能性が出てきます。

筆者も部署を移動し、本部との物理的な距離が近くなったことを転機に、
業務と密接に連携できるようになったことで、
有益な提案ができるようになり、成果を上げるようになったと語っています。

この話を読んだとき、
私はふと、友人のデータサイエンティストのことを思い出しました。
彼はデータサイエンティストの職について1年目ですが、
すでに、クライアント企業に常駐してデータ分析を行っているそうです。

その話を聞いた時は、
「SEとかなら現場で作業もあるだろうけど、
現場で作業するわけでもない彼が常駐するのは何故だろう?」
と疑問に思いましたが、
この本を読んで腑に落ちました。

作業はなくても、同じ場所にいることが、
クライアントと問題意識を共有するために重要で、
そのための常駐だったというわけですね。

外部委託は比較優位を意識して

限られた人数で、運営しているビジネスアナリシスセンターでは、
データ分析の外部委託も活用しているようです。

本文中では、外部委託をする際の基準として、

  • 外部委託した方が効率的なもの
  • 自分たちでした方が効率的だが、外部委託の容易なもの

の2つが語られていました。

これはまさに「比較優位」の考え方を実践されているのだなと思いました。

一つ目は、誰が見ても、外部委託すべきと分かりますが、
二つ目は一瞬あれ?と思うのではないでしょうか。

自分たちでした方が効率的な仕事を、
わざわざ外注していては、無駄ではないか?と思う人がいるかもしれません。

ここで比較優位という経済の考え方があります。

例えば、

  • A さんは1年間にぶどうを36t、リンゴを30t 出荷できる
  • B さんは1年間にぶどうを40t、リンゴを45t 出荷できる

とすると、BさんはAさんに比べて、ぶどうもリンゴも出荷量は多いのですが、
Bさんがぶどうとリンゴを同時に作るよりも、
リンゴに専念した方が、全体の出荷量は増えそうです。

そう考えると、Bさんはリンゴに専念して、
Aさんはぶどうに専念するのが、
全体として最もよい状態と言えます。

このように、どちらもできるからやるのではなく、
他との関係性のなかで、得意なところに集中することで、
全体としての利益を獲得できるようになるというのが、
比較優位の考え方です。

まさに、筆者らのビジネスアナリシスセンターの方が
効率よくできる仕事があっても、
それ以上に、得意とする仕事があるなら、
そちらに専念するために、外注を利用することが、
結局、総合的なパフォーマンスを向上させることになるのですね。

飽き性はデータサイエンティストに向いている?

筆者がデータアナリシスセンターを運営する上で、
工夫していたことの一つとして、
「マンネリ化」を防ぐために、
様々な事業部と仕事を行ったと述べています。

これを読んで、データサイエンティストの友人の言葉を思い出しました。
「自分は飽き性だから、色んな業界と一緒に仕事ができるデータサイエンティストが向いている」

データサイエンティストという概念が定着した今だからこそ、
データサイエンティストは、特定の事業に付属するようなものではなく、
幅広く、様々な事業の問題点を改善していくものと考えられているかもしれません。

ところが、筆者がデータ分析の仕事を始めた時には、
そのような地位を獲得するために、
様々な工夫が必要になったわけです。

筆者は「マンネリ化」を防ぐために、
様々な事業部と仕事ができるように画策していましたが、
結果的に、それが、後のデータサイエンティストの
あるべき姿に近づいていくことになったのですね。

まとめ

まさしくデータサイエンティストの一つのロールモデルとも言うべき、
筆者の経験が臨場感をもって語られた一冊です。

データサイエンティストになりたい人、興味がある人以外にも、
最近、よく耳にするけど、どんな人なの?と思っている人にも、
是非、読んでいただきたいと思います。

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